まず、こちらの8枚の写真をご覧下さい。
そこには、1羽のウサギと3羽のひよこが、身を寄せあう姿があります。
とても微笑ましく、心暖まる絵です。
それは、私のような素人が見ても大変上手な絵に思われます。
少し前の時代では、よく黒帯や黒繻子の帯をキャンバスに見立て、画家や自称芸術家が、思い思いの絵を画くことが粋とされていました。
私も仕事柄、そのような絵付の黒帯を多く見てきました。
その中でもこの絵は、秀逸です。
そしてこれは、女房に買ってやりたい程の帯だと感じました。
その時、ふと思いました。
どうして題材が、ウサギとひよこなんだろうと。
そして突然、閃きました。
これは、もしかすると向かい干支ではないのか。
そして、もしそうだとしたらこの作者は、相当の博識人だなと思いました。
向かい干支とは、自分の干支を1番目として数えて、7番目の干支のことです。
例図
昔から向かい干支の人や物は、自分と正反対の性質を持つからこそ、相性が良いという考え方があります。
そのため、それらのグッズや絵柄をあしらったもの大切にして、身近に持つようにすると、幸福が訪れるとする俗信が江戸時代からありました。
ですからこの帯は、幸運を呼び寄せる帯と言えるでしょう。
実は、金沢三文豪※注1※注2
として有名で、1873年(明治6年)酉年に生まれた泉鏡花※注3
が、向かい干支にあたるウサギの小物を集めていたことは、つとに有名です。
泉鏡花は、最愛の母からウサギの水晶をお守りとして与えられたことを機に、ウサギグッズの収集を始めたとされます。
そして、その数は相当なものになったそうです。
因みに金沢市内の泉鏡花記念館では、企画展「酉TORI/卯USAGI-錦絵で愉しむ向かい干支-」が、平成28年12月17日から同館で始まっています。
企画展では、鏡花が愛蔵したウサギにまつわる品々が多く並び、杖や陶磁製の置物などが注目を集めているそうです。
この企画展は、平成29年5月14日まで開催されていますので、興味のある方は是非来館されてみては如何でしょうか。
※注1
※注2
文豪……他人に鮮烈な影響を与え続ける優れた作品を多く発表した小説家の称。
※注3
泉鏡花代表作……義血侠血・照葉狂言・高野聖・天守物語
夜叉ケ池などいずれも幻想的な作品です。
なお夜叉ケ池は、1979年に松竹で映画化され、主演の坂東玉三郎(若き娘百合と龍神白雪姫の二役)の妖艶な演技が、当時話題となりました。(本当に女性よりも美しく感じました。)
そして、夫役加藤剛とのキスシーンが、とてもなまめかしいものでした。
ここにもう一つの深読みがあります。
鳥は、一羽・二羽と数えます。
そして、兎も一羽・二羽!!と数えます。
ちょっと、これは変じゃないですか。
この理由は、仏教的戒律によります。
仏教には、四つ足の生き物は、決して食してはいけないという教えがあります。
しかし、この教えを忠実に守っているとお腹が減って仕事になりません。
そこで人々は、考えました。
兎には、羽根があるじゃないか。
だから兎は鳥だ。そうに違いない。鳥なんだ。
だって耳のように見えるのは、羽根だろう。
だから兎は、食べてもいいんだ。
江戸時代は、生きるのが大変な時代でした。
もし、この帯に絵を画いた人が、この2つの謂れを知って掛けているならば、この人物は只者ではないと思います。
そうなればこの帯は、大変価値のある帯となります。
しかも手描きであるため、唯一無二の逸品です。
あなたがこの帯をお召になることがあれば、新年平成29年は、とても素晴らしい年になると思います。
特に、あなたが酉年であるならば、幸運に満ちた1年になることは、疑いのないことだと感じます。
因みに新年早々に着物10にて、選りすぐりの逸品の中で本品が、出品される予定です。
どうぞ、お楽しみに。(何や宣伝かい)
今回の担当は、達じいでした。
あんやと。
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